事業レポート

2023年10月31日

社会参加促進事業「アートとのいろいろな関わり方」

 社会参加促進事業「アートとのいろいろな関わり方」を9月2日(土)、福岡市美術館のミュージアムホールで開催しました。

 NPO法人ドネルモ事務局長・宮田智史さんの進行の下、自宅のリビングを再現したようなリラックスできる舞台セットの中で、5人のゲストがそれぞれのバックグラウンドや思いを語りながらリレーのようにトークをつなぎました。

 

 

▼トークゲスト

白鳥建二さん(全盲の美術鑑賞者/写真家)

野中香織さん(一般社団法人パラカダンス 代表理事)

中込潤さん(九州産業大学美術館 学芸室長)

宮城潤さん(那覇市若狭公民館 館長)

大澤寅雄さん(合同会社文化コモンズ研究所 代表)

 

 まずご登壇いただいたのは、映画『目の見えない白鳥さん、アートを見にいく』でモデル・主演も務めた白鳥さん。

 

 20代の頃単独の美術館巡りを始められた白鳥さんは、当初抱いていた「全盲の自分が美術館に行ったらどう楽しめるんだろう」という好奇心から、活動を続けるうちに、鑑賞の楽しみや、美術館の楽しみ方が増えたそう。

「誰と一緒に行く、美味しいレストランに行く、美術館に行くルートを考えるなど、美術館という“場”が好き」という白鳥さんのお話から、改めて美術館との関わり方、付き合い方が広がるようでした。

 

 その後にお話に加わった野中さんとの会話では、「人と一緒に作品を見ることで、作品と自分を超えた何かが生まれる」面白さ、一人でじっくり鑑賞することと人と一緒に鑑賞することの両方の良さについて考えました。

 

 

 野中さんはダンサー・コーディネーターとして、障がいのある方、高齢者、パーキンソン病患者、子どもたち、誰もが参加ができるような、さまざまな事業を展開されています。

 

 野中さんの、「いろんな人」(障がいがあったり、子どもだったり大人だったり)との出会い、舞台の持つ「特別な力」を感じる体験をお聞きし、舞台表現だけではなく、舞台に立つためのさまざまな過程における、個人の変化や関係性の変化の豊かさにまで話が及びました。

 中込さんが話に加わると、事業を実施する際、もともと興味のない人にどのようにアートに興味を持ってもらうか?という話題に。

 ダンスを含む「舞台」、展示を含む「美術館」と考えると、そこへの関わり方がアーティスト・作品・スタッフ・レストラン・観客など、さまざまなものに広がり、そのことで「アート」に関わりやすくなるのでは?という意見も出ました。

 


 九州産業大学美術館の中込さんは、学芸員になる以前から「作品と社会の接点」を考えていたそう。

 美術館で勤め始めてからも、アーティストと子どもたちを繋いだり、地域に出かけていったり、認知症の方に美術館をひらくなど積極的にアートと社会の接点を探して来られました。

 現在は、大学美術館を起点としながら、その周辺地域の課題に美術館としてどう向き合うか、地域のリサーチを重ね、「地域に届ける」取り組みをされています。

  “アートの持つ力”が身体的、精神的に豊かさをもたらす一方で、「継続すること」への課題についてもお話しました。

 

 宮城さんが加わったトークでは、集客数を求めるなど主語が「美術館」になるのではなく、その地域全体で見てどういう点がプラスになり、そこにどう美術館が役に立つのかという視点、美術館単体ではなく、外とつながることで美術館自身もイキイキできるというお話が印象的でした。

 

 地域に根差した公民館活動を行う宮城さんからは、「アートな部活動」と「パーラー公民館」についてご紹介。

 

 「アートな部活動」はコロナの時期、「つながり」の重要性を感じ立ち上げたのが始まりだそうです。

「イレギュラーなものの出会いの場」「学校の部活動とは違った価値観で運営できる場」であり、その活動が「地域や社会に向いている」ことを大事にされているそう。

 公民館は「場を作るだけ」で、スタッフには「何もしない」ように伝えているとか。

 「パーラー公民館」は今、実施の主体が公民館から地域の人々に移行しています。

 「柔軟で緩やかでありながらも、いろんなものに風穴を開けていく力がある」アートを通して、地域の人々の想像力や主体性を引き出し、寄り添いながら活動されている若狭公民館の様子が伺えました。

 

 大澤さんが加わると、地域の中の公民館の存在や役割について、「ひらく」をテーマとした活動について話が及びました。

 

 

 文化政策やアートマネージメントの調査・研究に携わる大澤さんは、文化・芸術の社会との関わりを生態系として観察されています。例えば田んぼの稲が水や光、生き物と関わり合って育つように、文化や芸術も関わりの中で育まれている、その関わりを観察するそうです。

 

 前日の白鳥さんとの美術鑑賞で、人と話しながらみることで作品への印象が変化する面白さなど振り返りつつ、映画「目の見えない白鳥さん、アートを見にいく」のタイトルから、「私/白鳥さん/アート/見ました」「私/白鳥さん/市美/出会いました」「私/白鳥さん/アート/美術館/障害者/見方が変わりました」など、それぞれの関係性の認識の変化についてお話していただきました。

 

 そしてリレートークを振り返ると、登壇されたゲストの皆さんは「市民とアートの関係だけでなく、アートを通した市民と市民のいろんな関係」を作っているという共通点が見えてきました。

最後に、文化・芸術が生態系のように循環する(あるアートプログラムを体験した子どもが、大人になってアートに関わるようになる、など)にはどのくらいの年月がかかるのか?という問いに対して、短期間で効果を求めるが故に循環が起きる前に終わってしまう危険性について話が及び、改めて「継続すること」の必要性を考えました。

 

長時間に及ぶトークイベントでしたが、あっという間の3時間となりました。

ご来場の皆様、登壇者の皆様、本当にありがとうございました!

 

▼「アートとのいろいろな関わり方」について詳細はこちら

https://www.ffac.or.jp/news/detail.php?id=67

 

 

 開催日時   2023年9月2日(土)15:00~18:00
 会場  福岡市美術館ミュージアムホール
 主催等

 主催 (公財)福岡市文化芸術振興財団、福岡市
 共催 福岡市美術館
 後援 (福)福岡県社会福祉協議会、(福)福岡市社会福祉協議会